何気ない会話が、文章になる。
本文見本|第四章より抜粋(一部省略・人物設定は創作)※転職を迷う夫と妻の会話に、取材者が以前聞いた進学や交際の話を重ねる場面。
食卓に紙を広げた夜のことは、恵美子さんも覚えていた。修一さんは給与、通勤時間、勤務地、家賃、賞与を書き出したという。
「紙いっぱい書いとった。でも結局、本人が行きたいかは分からんかった」
大阪の学校案内が頭に浮かんだ。知らない場所へ動く話になると、修一さんは自分の気持ちより先に、生活の条件を並べる。ところが恵美子さんへ電話した時には、そういう紙はなかった。
恵美子さんは、もう一つ覚えていた。修一さんが「由佳も小さいし、お前も大変だし」と言ったことだ。
「『私らのせいにせんでよ。
行きたいの?』って言ったと思う」